悪戯が成功した子どものように、笑った





		Oh!Heaven





		最初にその人を見つけたとき


		なんとなく、その正体に感づきながら


		それでも


		その口元に浮かんだ悪戯が成功した子どものような笑顔に


		つられて笑ってしまった




		「は?」

		その話をしたとき、蛮ちゃんは一瞬、とても面白い顔をした

		「・・・なんだって?」

		片手でこめかみをおさえ、片手でストップの形をとりながら

		呆れているのか、怒っているのか微妙な声で、そう聞いた

		聞かれたので、俺は大人しく答える

		「だから、死神が俺のお迎えにね・・・」

		バカンッ

		「・・・いったーい・・・;;」

		「目、覚めたか?」

		あ、怒ってる

		「なんで叩くの?本当のことなのに・・・」

		「馬鹿銀次、死神なんざいるわけねーだろ」

		「だって、本当にいるんだよ〜」

		バカンッ

		「・・・あぅ;;」

		また叩かれてしまった

		「まだ言うのはこの口か?」

		「あぇぇぇぇぇー・・・ばんひゃーん・・・」

		「まったく」

		呆れた声で呟いて、蛮ちゃんはたちあがった

		「仕事?」

		「あぁ、ったく。一人だと不便すぎて仕方ねぇ」

		「・・・ごめんね」

		「復帰したら三倍返し」

		「うわ、きつっ」

		「じゃーな」

		蛮ちゃんは後ろ手をふりふり部屋をでていった

		パタン

		音をたてて扉がしまる


		ほぼ同時に


		「・・・あ」


		閉まった扉から男が一人

		ゆらりと

		まるで陽炎のように


		「蛮ちゃんがいるときにいてくれればいいのに」


		俺は非難がましくそういった

		この死神さんは何故か蛮ちゃんがいないときにしか出てこないのだ

		彼は、とても楽しそうに笑い

		そして


		「俺の姿は他の人にはみえないんだよ、天野銀次くん」


		優しいというか

		落ち着いているというか

		・・・

		穏やかな、声


		「それは・・・俺がもうすぐ死ぬから?」


		俺の問いに、死神さんは悪戯っ子のように微笑むだけだ


		・・・どこだっただろう?


		この笑顔、いつか、どこかで見たような気がするのだけれど




		「ねぇ、死神さん・・・さっきの会話、きいてた?」


		「まぁ、一部始終は」


		「えへへ、いいでしょう?」


		俺はとても、幸せ者でしょう?


		「蛮ちゃんってさ、凄いモテモテなんだよ?」


		本当は・・・


		仕事を手伝ってくれる奴なんて沢山いるんだ


		それこそ


		・・・新しい相棒だって


		だけど


		ずっと、一人で待ち続けている


		俺が帰ってくるのを


		「優しい、人・・・でしょう?」


		照れ隠しに手が早いのがたまに傷だけど


		「こんな幸せ者、他にいないよね」


		ぽたり



		涙、ひとしずく


		「泣くと、体力消耗するよ?」


		「うん・・・えへへ、優しい死神さんだねぇ」


		ぐいっと涙を袖ではらって


		顔をあげた銀次は笑っていた


		「俺さ、いつ自分が死んでもいいと思ってたけど・・・」


		「・・・」


		「本当は、蛮ちゃんのそばにずっともっと一緒にいたいけれど・・・」


		もう、思うように動かせない体は刻々と、その時をしらせる時報のようで


		怖くないと言えば嘘になるけれど


		「でも、その時がきたら・・・いきなり蛮ちゃんを一人残していくようなこと
		は、したくないから」


		耳をふさぎ、目をふさぐのではなく


		「だから、ちゃんと考えておくんだ・・・俺が逝ってしまっても、蛮ちゃんに
		残してあげられる何かを」


		前を向いて、向かい合って


		死、と・・・




		人の死に直面したのは、これがはじめてじゃない。

		死にそうな目にだって何度だってあってきた

		だけど・・・

		誰かが、次の日にはいなくなっていることが当たり前だった昔は別としても・・・

		誰かがいなくなる・・・と、いうことは

		人と刻んだ時間と、人と過ごした場所と、人と作った思い出と

		たくさんのものが無くなっていくということだ。

		たくさんのものが無くなって、無くなって・・・

		その流れに逆らえない自分が無力だと感じることだ。

		無力という孤独とよくにた喪失感に、生きることすら食われていく気がする

		・・・俺がいなくなる、というのは・・・どういうことだろう?

		考えられない

		「蛮ちゃん、まだ・・・かえらないかな?」

		ふいに、蛮ちゃんに会いたくなった


		銀次


		そういって、俺の名前を呼んで欲しかった

		蛮ちゃんは、誰よりも俺の名前を心地よく呼んでくれるから

		だから、目をつぶる

		蛮ちゃんの声

		器用な手

		綺麗な指

		整った顔

		全部、しっかりと思い出せるから

		思い出でいい

		思い出がいい

		記憶の群衆にあうだけで、心はゆるやかに温かくなる

		死んでしまうと、二度と会えないんだろうか?

		漠然と、そう、思う。

		そんなことは、ない

		ない・・・とはおもうのだけれど

		俺はバカだから、それにきちんとした理由をみつけることはできない

		でも

		死んだ後でも

		きっと、おれは、蛮ちゃんに会いたいとおもうだろうから

		・・・あぁ

		幽霊とかお化けに大騒ぎするのは、こんな理由なのかもしれない

		怖いとか、気持ち悪いとかいうよりも先に

		本当は、ただ、ただ

		死んでしまった人にもう一度会いたいだけじゃないのかな?

		体は死んでも

		思いは死なないと、信じたいだけなのかもしれない




		ガタンッ




		音、が、した


		「?・・・ば、ん・・・ちゃん?」


		声をかけるとほぼ同時に、ソレは染みのように広がっていく

		空間に

		音もたてず、じわじわと

		「え?」

		それは、あきらかに異質な存在で

		浮かんでいるようにも、天井から染みているようにも見え

		そして

		二次元的にも三次元的にも見えるその中から

		黒い二本の腕

		しみいるように

		のばすように

		ゆっくり

		こちらへむかって


		「・・・あ」


		瞬間に


		それは、恐怖、そのものだと、思った


		「まっ・・・」


		待って、といいたかった

		まだ、なにも用意していなかった

		あれにつかまれば

		とても後悔する気がした


		待って、と、いいたかった


		でも、その言葉は




		「はいはい、ストップ、ストーップ」


		穏やかな声に遮られた


		「・・・・・・」


		「困るなぁ、勝手につれていかれちゃ」


		銀次の前に、男が一人

	
		「・・・・・・し、に・・・神さん?」


		「・・・あはは、実はこっちがホンモノ」


		「え?」


		男はとても愉快そうに笑った


		ホンモノと指さされたほうには、さっきの黒い染み


		なぜか広がることはなく、小さく萎縮していく


		「あれ?」


		自称・他称ともにお馬鹿な銀次の頭ではそこまでが限界だった


		「悪い悪い、だますつもりじゃなかったんだが…」


		男は、さらに笑う

		まるで、悪戯が成功した子供みたいだ


		「俺はただの代理人」


		どこかでみたことのある笑顔


		・・・ぁ


		やっと、銀次は思い出した


		もしかして・・・


		「邪馬人・・・さん?」


		「よくわかったな」


		ご褒美のように、その人はまた笑ってくれた


		暖かな笑顔だった


		「蛮ちゃんが本当に笑っているときと同じ笑顔だから・・・もしかして、と
		思って」


		「そうか」


		なんで、俺、今まで気づかなかったんだろう?


		うわ、はずかしー;


		「え、でも・・・なんで?」


		しばらく赤面してから、やっと正気を取り戻して、それだけを聞いた


		「今いっただろ?俺、代理人」


		「???」


		ダイリニンってなんですか?センセー


		心で小さくつぶやいた銀次の質問に答えてくれる先生はいなかった


		「君の」


		「俺の?」




		「もちろんこれはたとえ話です、むかしむかし、仲の良い家族がいました、男
		とその妹と少年。血はつながっていないけれどとても仲の良い家族でした」

		「?」

		銀次は、唐突な話に聞くだけがやっとでついてく

		邪馬人は、穏やかに笑って話し続ける

		「だけど、ちょっとした不運で家族はバラバラになってしまいます。妹と少年
		は生き別れ、男は死んでしまいました」

		「・・・」

		「しかーし、男の本来の寿命はつきていなかったのです。成仏できないので途
		方にくれた男は少年のそばで守護霊をすることしました」

		そんなこと、勝手にきめていいんだろうか・・・

		冷静な誰かさんがいたら、まず、そう、つっこむところだ、ここは;

		が・・・

		「卑弥呼ちゃんじゃないの?」

		「卑弥呼のことは蛮に頼んだからな」

		これほど頼りになることは、ほかにないだろ?

		いたずらっ子のように笑う

		「ところが、蛮もあの通りだから守護霊(もどき)の出る幕はありませんでし
		た」

		「・・・はぁ?」

		銀次がつぶやくと

		「というわけで、俺が君の代理人として成仏しちゃおう。・・・と、まぁそう
		いうことでv」

		「そういうことで・・・って」

		・・・・・・って

		それは

		考えなければいいのだ

		状況に流されるまま

		考えなければよかったのだが

		「だ・・・」

		考えて、しまった


		「駄目です、それ、俺の身代わりってことじゃないですか?!」


		「そうともいう」


		「ぜったい、だめ!!」


		「どうして?」


		「そんなの、駄目ですよ、邪馬人さんは・・・蛮ちゃんのそばにいなきゃ!」


		「いたってみえてねーから一緒だって」


		「そんなことないよっ、蛮ちゃんは頭いーからわかってるよ、みえなくても、
		そばにいるって、きっと・・・」


		ぽろぽろぽろ


		涙が散る


		邪馬人ははじめて困ったように笑うと


		「あー、泣くな;俺は泣かれるのが一番苦手なんだ;」


		そして


		「こらっ、天野銀次」


		「あぇぇぇぇぇぇぇ・・・」


		びみょーんと、ほっぺたを左右に引っ張られた


		「一回しか言わないので、よく聞くように」


		「はひ・・・」


		頬をひっぱる邪馬人はとても楽しそうだ


		見え隠れするのは蛮の影


		・・・正しくは、逆なんだろうけれど


		「蛮にとって、君の命というのは自分の命と同じものなんだよ」


		「・・・」


		「もしかしたら、自分の命以上なのかもしれない、ほら、蛮はああいう性格だ
		からね」


		「・・・・・・うん」


		「だから俺は、厳密に言えば、君を助けるのではなく、蛮を助けるためにここ
		にいる」


		「・・・」


		「君がいなくなる、というのは蛮にとってとても辛いことなんだ、俺はそこか
		ら蛮を助けてやりたい」


		「・・・」


		「ほら、ここで君を助けることは、つまり蛮を助けることになるんだよ」


		「・・・でも・・・」


		ぼろぼろの涙で前がみえなくなる


		こんなにちかいはずの邪馬人の顔もみえない


		ぱしんっ


		邪馬人はひっぱっていた手をはなして、そのまま銀次のほほをうった。


		涙が散る


		「ちなみに、これは君に貸し1、そのうち返してもらう」


		「え?」


		「・・・・・・蛮を、頼む」


		「・・・・・・はい」


		「お、やっと笑ったな」


		ふたり、同じように笑う


		そして、ふと笑うのをやめ


		銀次は、きになっていた最後の質問をした


		「でも、邪馬人さんは・・・それで、本当に・・・」


		いいんですか?の言葉は遮られる


		「俺は蛮が幸せならそれでいいんだ」


		誇らしいその一言で


		そして


		「あの日・・・蛮を残してしまったこと、後悔していないといえば嘘になるけ
		れど」


		少しだけ、悲しそうに笑って


		「でも、蛮は君にあえたし、俺はこうして蛮のためになることができるんだか
		ら、結果オーライv」


		悲しいことも


		辛いことも


		たくさんあったけれど


		そのぶん


		楽しいことも


		嬉しいことも


		同じだけ、それ以上にあったから


		暖かいものが、たしかにあったから


		「でも、これは・・・俺のわがままだから、蛮には内緒な?」


		「はい」


		「泣くなって、胸を張れ、君は俺に蛮のためにできる最後の仕事をくれたんだ」


		「・・・・・・」


		「蛮との日々と、蛮の幸せと、そしてこれから続く蛮と君の時間を護る。な、
		かっこいいだろう?」


		「・・・はい、・・・はいっ」


		とても、かっこいいです


		銀次は、泣きながらそういった


		すると


		やはり、邪馬人はイタズラが成功した子どものように、満足そうに笑ってくれ
		た




		青空は、笑っているような気がする


		まるで、悪戯が成功したように


		「ただいま、銀次・・・」


		ドアをあけて、蛮は一瞬たちどまった


		「・・・ぎ、んじ?」


		「おかえり、蛮ちゃん」


		「お前、たって・・・」


		「うん、大丈夫だよ。蛮ちゃん」


		窓を背に銀次が笑っている


		蛮はツカツカとそこまでかけより


		そして


		バカンッ


		「・・・いったーい・・・;;」


		「お前、ホンモノの銀次・・・だよな?」


		「そーだよ・・・いたいなぁ」


		「・・・・・・お前」


		「あ、みてみて、蛮ちゃん、ほら綺麗な青空だよ?」


		銀次は無邪気に笑って青空を指さした


		蛮はしばらくあっけにとられ


		そして


		「・・・ま、いっか」


		そういう結論にたっし


		指さされた方をみた


		青空は、なぜかいつも笑っている気がする


		「ほんとだな」


		そういって、微笑んだ蛮のそばを


		風が通り抜けた


		「・・・・・・?」


		ふいに、風が・・・


		「どうしたの?蛮ちゃん」


		「・・・いや、べつに」


		風が口吻を贈ってくれたような気がした


		「ただ・・・優しい風が吹いたな、と思って」


		とりあえず、そういうことにしておく


		嘘じゃない


		「・・・蛮ちゃん」


		その優しい口吻は遠い誰かを思い出す


		でも、その誰かは今頃あの空の上なので・・・


		「あのね、蛮ちゃん・・・っ」


		「んー・・・」


		青空は、笑っている気がする


		悪戯が成功した子どものように


		それが、誰かが空にいる何よりの証拠


		「実は・・・」


		「・・・いいんだ」


		涙、ひとしずく


		「・・・蛮、ちゃん・・・」


		「もう、いいんだよ」


		蛮は、なぜか溢れてきた泪をぬぐった


		きっと


		「すげー青空だな、目にしみるぜ・・・」


		「・・・・・・」


		「こうしてみると、なんか笑ってるよな」


		「・・・うん・・・うん、そうだね・・・そう、だね・・・蛮ちゃん」


		二人・・・

		一緒に見上げた空の色は、青

		青空は笑っている

		きっと、イタズラが成功した子どものように、満足そうに笑っていることだろ
		う


		だから


		銀次のとなりで、蛮もやはり同じように笑って

		その笑顔をみて、銀次は

		あぁ、やっぱり蛮ちゃんは知っていたのかな、と思い


		そして

		笑う青空にむかって、一言




		おい、バカ邪馬人・・・・・・










		IHATOVさまの100000HIT記念フリーSSですv
		邪馬人にーちゃん!かっこよすぎです!!
		寿命がきてないのなら生き返ってよ!と、思わず叫んでしまいました。
		あーもう、にーちゃんかっこいい!銀次!そんなにーちゃんに蛮ちゃん
		のこと頼まれてんだから、頑張ってよ!
		さすが邪蛮マスターさまですね。かみぃさま、こんなに素敵なSSありが
		とうございましたv
		最後に一言。
		邪馬人にーちゃん、何で死んじゃったんだよぅ!!(泣)