見た瞬間、この目を知っていると思った。 会ったことはないはずなのに、それでも、記憶に、確かにこの色が 焼きついている。 譬えるものなどない、この世で唯一つの至高の宝玉。 一対の『EVIL EYE』。 EVIL EYE 組み敷いた体が刺激に跳ねるのを、酷く不思議な気持ちで見ていた。 深く穿つほどに、押し殺した嬌声が洩れ、刺激に体が反応する。 時折、睨むようにこちらに向けられる瞳は快楽に濡れていて、得も 言われぬ色香を醸し出している。 その瞳をもっと間近で見たいと引き寄せれば、途端、嬌声が上がる。 次いで、思惑どおり向けられるキツイ視線。 青、紫、そのどちらともとれ、そのどちらでもない色。表現のしよ うのない、自然の作り賜うた、この世にただ一対の『邪眼』。それが、 俺を睨み据えている。 「……こんなこと、するために……俺の手を、んっ……取った……の かよ……っ。」 真っ直ぐに俺を睨みつけながら、切れ切れの問いかけがその口から 零れ落ちる。 快楽に濡れた瞳に怒りという感情が混ざりこむことにより、更にそ の色は艶を増し、凄絶な色香を醸し出している。 艶めく瞳の色に、なんという美しさだろうと思う反面、それをどこ か冷静に見ている自分がいた。 『観察』とでも言えばいいのだろうか。脳の何処かに確かに焼きつい ているはずの記憶の、その糸を手繰るように、キツイ視線を真っ直ぐ に見返す。 俺は、この色を、確かに知っている。 けれど、お互い会ったのは今日が初めてのはずだ。 どこで知った? 俺は、どこで、この瞳を、色を、知った? そんな疑問符が、さっきから頭の片隅でぐるぐると回り続けている。 「聞いて……んのか、よ……っこの……んあっ!」 問い掛けに一向に答えを返さぬ俺に焦れた蛮が、シーツを掴んでい た手をこちらに伸ばしてきた。それを引き寄せしがみ付かせれば、自 重に、更に深く欲望を飲み込むこととなり、堪えきれぬ嬌声が零れ落 ちた。 『こんなことをするために………?』 先の、蛮の言葉を反芻する。 自分は、なぜあの時、この手を伸ばし、蛮をここへ連れてきたのか。 蛮をこうして組み敷くこと、それがその理由なのか。それとも、何か 他の理由があって、蛮をここへ連れてきたのか。 それすらも、分からない。自分の思考であるはずにも拘らず、答え を見出すことが出来ない。 ただ分かっているのは、たった一つ。 自分はこの瞳を知っている、ということだけだった。 「………いや……これが理由ではない……はずだ。」 確信のもてぬまま、言葉だけが口をついて出た。 俺の言葉に、蛮が首を傾げる。 疑惑の眼差しに、それでも俺は蛮から視線を逸らさず、真っ直ぐに その瞳を見つめ続けた。 「……そうじゃない。」 うわ言のように洩れる言葉。 手は蛮の頬を捕らえ、もっとその瞳を良く見ようと引き寄せる。 「俺は、この瞳を知っている。……が、どこで知った?俺は、この色 を、どこで……?」 「邪馬人……?」 蛮を、というよりは、その瞳だけを見つめ言葉を紡ぐ俺に、蛮の表 情が怪訝なものになる。 「こんなにも鮮明に記憶に焼きついているのに、それがいつのことだっ たのか、思い出せない……。俺は、何故、この瞳(EVILEYE) を知っている?」 「やま……うぁっ!」 蛮が何か言いかけるのを遮るように、止めていた行為を再開させる。 「や……め……っっん…っあ、く……っっ!」 追い詰めるように突き上げれば、その度に嬌声が零れ落ちる。 快楽を振り払いたいのか、目を瞑り、頭を振る様に、得も言われぬ 感情が湧き上がる。 瞼の奥、隠された瞳。しかし、その色を鮮明に思い出せる。 得も言われぬ美しさ。神の(いや、悪魔かもしれぬが)作り賜う た、至高の宝玉。それ故にか、禍々しさをも感じさせてしまう、この 世にたった一つの『EVIL EYE』。 「……この記憶は……本当に俺のものなのか………?」 最後に洩れた疑問は、嬌声に掻き消され、蛮の耳には届かなかった。 THE END 大変長らくお待たせしました;;; いえ、既に呆れを通り越して、見捨てられたと思われる、 七宮 真紅さまからのリクエスト、「邪×蛮で裏あり」です。 「どこが「裏あり」やねん!」 というツッコミが聞こえてきそうなほど、裏にしては、誠に もって、ヌルイ、いや、ヌル過ぎる代物になってしまいまし た;申し訳ありません; 散々お待たせした挙句のこの体たらく;なんとお詫びしてよ いやら;;; 経緯がない、本当にシーンだけのSSで、何が何やら、と言っ た感じですが、ふっと浮かんで、文章に起こしたくなったも のなので、このような状態です;雰囲気を察していただけれ ば、幸いです(苦笑) 大変お待たせしてしまったので、見ていただけているか分か りませんが、七宮 真紅さまに捧げさせていただきます。