秘め事の一夜 ― 3 ― 滑らかな肌の感触を思う存分楽しみながら、一つ二つと所有印を 刻んでいく。その度に震える体に、自然と笑みが洩れた。 強がりにか嬌声を噛み殺す彼の姿。それを視界の端にとどめなが ら、白い肌を薔薇で飾っていく。 思っていた通り、彼の白い肌に赤いキスマークは良く映えた。そ れが淫靡でありながら、妖艶なまでの美しさを醸し出す。 その白い肌の上、殊更に赤く色づく蕾が、私を誘うかのように胸 の動きに合わせて震えていた。それに、軽く唇を寄せる。 「あ……っっ!」 途端、噛み殺し切れなかった甘い吐息が零れ落ちた。 「ああ、ここが良いんですね?」 「ち、ちが……あっっ。」 慌てて否定する彼を無視し、柔らかく口に含む。 零れ落ちた嬌声に、やはりここが弱いのだと確信する。 「…あっや……っダ…ぁ……っっ。」 片方を口で、もう片方を指で愛撫してやれば、どうしても噛み殺 し切れない吐息が幾度も零れ落ちた。 まるで甘露のような、甘い、甘い吐息。 想像通りのそれに、酔わずにはいられない。 飽きもせずそこを刺激しながら、空いた手でベルトを外し、ズボン を下着ごと取り払う。露になった下肢に、羞恥にか、桜色に淡く染 まっていた肌が更に色づく。それが得も言われぬほど美しい。 「やっいや…だっっあかば…ね…っ。」 細く声を上げながら、嫌々をするように首を左右に振る。 堪らなく嗜虐心を煽るその姿に、苦笑せずにはいられない。 「美堂くん。あまり私を煽らないでください。あまり煽られると、 あなたとの約束を反故にしてしまいそうですよ。」 「な……!?あ!あぁっっ!!」 私の言葉に目を見開いた彼に笑みを向け、右手を下肢へと伸ばす と、快楽に既に形を変え始めていたそれに指を絡めた。 途端、甲高い嬌声を上げ、体を仰け反らす。 「早いですね。もう、こんなになっていますよ?」 彼にそれを知らしめるように殊更にゆっくりと指を這わせ、その 反応を楽しむ。既に潤み始めていたそれが、指が蠢く度に濡れた音 を立てた。 「……っっダ…っっあっや…ぁっっ。」 快楽を振り払いたいのか何度も首を打ち振る姿に、指の動きを更 に淫らなものに変えていく。既に殺しきれない嬌声が、その度に濡 れた唇から零れ落ちた。 「苦痛に歪む美堂くんもそそりますが、快楽に酔う姿も絶品ですね。」 「な…に言って…っあうっっ!」 小さく笑いを零しながら尖端の割れ目を軽く引っ掻けば、堪えき れずに達してしまった。 「ご感想は……?」 「………っっ!?」 耳元に囁いた言葉に、彼は耳まで赤くなった。 「何言って……っっっ。」 「美堂くんに思う存分快楽に酔ってもらうのが、今夜の目的ですか らね。良くなければ遠慮なくおっしゃってください。あなたが快楽 に十分酔えるよう、最大限の努力をしますから。」 「ふざけ……っあぅっっ!」 驚愕に見開かれた瞳に笑いかける。そうして彼自身に口付ければ、 快楽に、彼は背を弓なりに仰け反らせた。 「あ……っや、や…めっっあかば……ねっっ。」 嫌々をするように頭を振る彼のその姿がまるで幼い子供のようで、 良識ある者であれば、己の行為に良心の呵責を感じるところだろう。 が、生憎とそう言ったものに縁遠い私は、そう思うどころか更に泣 かせたい、この手に狂わせてしまいたいと、嗜虐心が頭を擡げるば かりだった。 快楽にか細い声を上げ、震えるしなやかな体。無意識に、だが確 実に私を煽る彼の嬌態に苦笑を禁じえない。 彼だけが私の心を揺さぶる。他の何者にも乱されることのないこ の私に、動揺や嫉妬と言った人並みの感情を抱かせる唯一無二の存 在。"美堂 蛮"と言う至上の存在が呼び起こすこの不快なはずの感 情は、だがしかし、不思議なほど甘美で私を酔わせる。それは狂お しいほどに。 形を確かめるように舌でなぞれば、刺激に甘露が溢れ出す。快楽 にその綺麗な顔を歪ませる彼を視界の端に収めながら、溢れたそれ を掬い取るように舐めた。 一頻りそれを愛撫する。そうして徐に両足を肩に担ぎ、秘められ た箇所に唇を寄せた。 「あ……っっ!」 途端大きな反応が返ってくる。それに薄く笑みを浮かべ、閉ざさ れた秘所を暴くように丹念に舌を這わせた。 滑る舌の感触に、むずがるように体をくねらせる姿が悩ましい。 もはや堪えきれない嬌声がひっきりなしに上がり、私の情欲を激し く揺さぶった。 溢れ出す雫が伝い落ち、唾液と交わってそこを淫らに染め上げる。 十分に濡らした蕾に指を滑らせれば、歓喜の声と共に飲み込んで いく。導かれるまま奥へと突き入れ、そうして根元まで納めてから 顔を上げた。 「ん…ぁ……や……。」 体を震わせ、埋め込まれた指の感触に耐える姿は得も言われぬほ ど美しい。曳かれるように唇を寄せ、口付けを交わす。 「あ…ふ……。」 解放してやると、甘い吐息を零した。 入れたままだった指をゆうるりと蠢かせば、途端、刺激にのたう つ体。それを見ながら、殊更にゆっくりと蠢かす。 指によって繰り出される刺激が堪らないのか、何度も頭を振り、 堪えきれない嬌声を上げる。張り詰めた彼自身は雫を零し、だがイ けないもどかしさに淫らにひくついていた。 「や…も……イ…かせ……っっ。」 潤んだ瞳を私に向け、彼が解放を求めて懇願する。 それにどうしようもない感情が湧き上がる。 彼を、この手で狂わせたい。 そんなどす黒い感情を、今回ばかりは押し止めて、サイドテーブ ルから潤滑油を取り出す。そうしてぬるりとしたそれを指で掬い取 り、濡れた秘部へと丹念に塗り込めた。 「あ…んんっっや…ぁ……っ。」 ぬるりとした感触に、彼は何度も頭を振った。 滴るほどにたっぷりと塗り込め、そうして再び指を差し入れる。 「あ……っっ!」 歓喜の声を上げる彼に薄く笑って、軽く中を嬲ってから抜き、今 度は2本まとめて差し入れた。 潤滑油にぬめるそこは抵抗もなく私の指を受け入れ、嬉しそうに 収縮を繰り返している。 その反応の良さに、彼の体をこうした人物はやはり銀次くんなの だろうかと考える。それが一番順当な考えに思われたからだが、し かし、違和感を感じるのはなぜだろうか。 「や…も……イ…かせ……っっっ。」 動きを止めてしまった私に、イきたくて疼く体を持て余している 彼が体をくねらせた。 凄絶な色香を滲ませるその媚態に、笑みが浮かぶ。 「これは失礼しました。そうですね。まず、イってもらいましょう か。」 唇に軽く口付けて、解放を促すように震えるそれに唇を寄せる。 秘部に入れたままの指を蠢かせながら刺激してやれば、あっけなく も達してしまった。 溢れた甘露を残らず飲み込む。その音に、彼は淫蕩に潤んだ瞳を 私に向けた。 淫蕩に濡れた瞳、紅を刷いたかのように紅い唇、上気した頬、淡 く色づいた滑らかな肌、何もかもが私を惹きつけ、揺さぶって止ま ない。 なぜこれほどまでに彼に心揺さぶられるのか、いつからどうして これほどまでに執着するようになったのか。今となってはもうその きっかけがなんだったのかさえ思い出せないというのに、私の心は まるで縫い止められたかのように彼だけを求めている。 そう、彼だけが、私にもこのような感情があったのだと気づかせ るのだ。 魅せられたように手を伸ばし、その頬に触れる。彼はそれに半ば 焦点の合わなくなった瞳を向けた。 「綺麗ですよ、美堂くん。」 薄く笑みを浮かべて、唇を重ねる。軽く触れ一度離れると、もう 一度、今度は深く口付ける。 「はふ……ん……っ。」 零れ落ちる甘い吐息を唇で掬い取る。苦しげにもがく体を深く抱 き込んで、思うまま貪った。 口付けを交わしながら、濡れた秘部へと指を滑らせる。そこへ触 れた途端、期待にか、体が大きく震えた。 それに笑みを浮かべ、そのまま2本差し入れる。 「んっんんっっ!」 抱いている体が私の腕の中で大きく震える。 入れた指をゆうるりと蠢かしながらも、何度も口付けを交わす。 合間に洩れる苦しげな嬌声が耳に心地いい。 差し込んだ指の数を3本にしてから、そこでようやく解放して やった。 「あっあ…ぁ……っっ!」 途端零れ落ちる甘い声。 差し入れた指を淫らに蠢かせば、体を仰け反らせ嬌声を上げる。 潤滑油に含まれた催淫剤の効果か、もはや彼は完全に快楽に身 を委ねていた。 狭いそこを馴染ませるように、指で丹念に解してやる。反応が 返ってくるところは殊更執拗に刺激してやり、快楽にのたうつ彼の 様を思う存分堪能する。 「あ…や……っも…もっと……っ。」 そのうち、指からの刺激では我慢できなくなったのか、彼の口か ら思ってもみなかった言葉が零れ落ちた。 「もっと……?なんですか?美堂くん?」 「や…早…くっ入れ……っっ。」 耳元に囁けば、擽ったそうに肩を竦め、それでも彼は私を求めた。 催淫剤の効果とはいえ、彼からの懇願に悦びを隠せない。思わず、 喜悦に笑みが浮かぶ。 「分かりました。思う存分酔ってください。快楽に。」 唇に軽く口付ける。そうして指を引き抜くと、腰を掴み、濡れた 秘部に自身を突き入れた。 「あ…あぁっっっ!」 私を受け入れ、彼は悦びの声を上げた。 根元まで入れて、そうしてゆっくりと腰を蠢かす。 彼の弱いところを的確に突いてやれば、背を弓反らせ、嬌声を上 げる。その姿が淫らで、それでいて得も言われぬほど美しい。 腰の動きを徐々に激しく淫らなものにしていく。 「あっんぁっっあ…あぁ……っっ!」 激しい動きに耐え切れず、程なく彼は絶頂を迎えた。 甘く絡みつく彼に促され、それから暫し遅れて彼の中に欲望を解 き放つ。 「はぁ……は…ぁ……。」 余韻に身を委ねている彼の、その両手に掛けられた手錠を外して やる。紐も外してから彼の体を抱き起こし、力ない両手を私の首に 掛け座位へと移行する。 「ん……ぁ……。」 自重に、更に深く私を受け入れた彼が、力なく私に凭れ掛かり溜 め息のような吐息を洩らした。 「美堂くん。」 名を呼べば、潤んだ瞳を私に向ける。 得も言われぬほど美しいその瞳に、私の姿が映っている。 私だけを映した瞳。 その色に、快感にも似た感覚が突き抜けていった。 彼を更に抱き寄せて、涙の滲む瞳に口付ける。それから唇に、首 筋に所有印を刻んでいく。 淡い刺激に、吐息が零れ落ちた。 甘い吐息が私の耳を擽る。その音が心地いい。 しばらくそうして繋がったまま、淡い刺激を送り続ける。 赤く色づいた蕾に軽く歯を立てれば、しなやかに背を弓反らせて 甘い声を上げる。私の腕の中で快楽に酔う彼は、淫らで、そしてこ の上もなく美しかった。 止めていた腰の動きを再開すれば、徐々に激しくなる動きに嬌声 を上げ私に縋り付く。助けを求めるかのように縋り付く彼に、自然 と抱く手に力が籠もった。 「あ…あ……っっも…イ……銀…っっんっっ!」 絶頂間近の、彼の口から零れ落ちる名に、咄嗟にその口を塞いで しまう。そうして唇を重ねたまま、息苦しさに嫌がる彼を追い詰め ていく。 震える体が一瞬硬直し、口を塞がれたままの彼がくぐもった声を 上げた。 腹に感じる生温かい感触。 急速に力を失う彼をしっかりと抱き締めて、口付けから解放して やる。 「んぁ……っはぁ…っ。」 苦しげに荒い呼吸を繰り返す。その彼をゆっくりとベッドに寝か せ、萎えた自身を抜き取った。 「ん……っ。」 抜けていくものの感触に体を竦ませる彼に、自然と笑みが浮かぶ。 「美堂くん。私の腕の中で銀次くん(かれ)の名を呼ぶのは止めても らいましょう。いくら今夜の目的が美堂くん、あなたに快楽に酔っ てもらうことでも、私としてはやはり、気分が良くはありませんの で。」 言いながら、手錠と一緒に出したまま放置していた布を手に取る。 そうして、それで彼の口を塞いでしまう。 「んっんんっっ!」 「そんな目をされてもダメですよ、美堂くん。そのままでいてもら います。あなたの鳴き声が聞けないのは至極残念ではありますが。」 『それでも、これ以上、あなたの口から銀次くん(かれ)の名を聞く よりはマシですから。』 続く言葉は胸で呟いて。 らしくない感情に苦笑めいた笑みを浮かべ、そうして彼の体を俯 せにする。 「さあ美堂くん。夜はまだ始まったばかりです。存分に快楽に酔っ てください。」 耳元に囁いて、腰を引き寄せる。そうして濡れそぼった秘部に、 再び自身を突き立てていった。