視線その6 駅に着くまでの間、ネギ君はずっと僕にしがみついていた。それは酷く周りの視線を集めたが、ネギ君が 顔を伏せていたため、さほど気になるものでもなかった。尤も、ネギ君にとっては、この視線も恥ずかしさ を増長するものに他ならなかっただろうが。 耳まで真っ赤にして僕にしがみついている様は酷く可愛らしくて、状況が状況だけに、その困惑に揺れる 瞳を見られないのは至極残念だった。困惑に潤む瞳と朱に染まった頬は、さぞ魅惑的だろう。とは言え、 そんなネギ君の顔を自分以外の誰かが見るなど、考えたくもないことだったので、結果、現状を良しとする ことになる。 「ネギ。着いたよ。」 ネギ君にとってはとても長く感じられたであろう時間を経て、ようやく駅に着く。 耳元に声をかければ小さく反応して、けれど顔は上げずに、ネギ君は僕の腕にしがみついた。そんなネギ 君を伴って、ホームに降りる。 さて。これからどうしようか。食事には少しばかり早いこの時間。買い物か何かで時間を潰して、と考え ていたのだが、しかし、予定を変更した方が良さそうだ。 軽くネギ君を見やり、そう考える。 「食事にするには早いから、カラオケにでも行こうか?」 僕の言葉にようやく顔を上げたネギ君は、躊躇いながらも小さく頷いた。 先に利用していた客がそうしていったものか、照明はギリギリまで落とされており、部屋の中は薄暗かっ た。 ネギ君を先に入らせ、ドアを閉める。薄暗い状況もどうかと思われたので、スイッチを入れ、少しだけ明 度を上げておいた。 「ネギ君。おいで。」 所在無げにしているネギ君に手を差し出す。おずおずといった様子で、それでも僕の手をとったネギ君を、 そのまま引き寄せて抱き締める。そうして軽く抱き上げると、椅子に腰かけた。 「タ、タカミチ……っ。」 向かい合わせで、僕の足を跨ぐようにして椅子に膝をついているこの状況が恥ずかしいのか、ネギ君の頬 は朱に染まっている。困惑に揺れる瞳もどこか潤んでいるようで、誘われているような錯覚に囚われた。 スカートの裾が気になるのか、それとも他の理由があるのか、ネギ君は片手で裾を押さえている。もう一 方の手は僕の肩にかけられていて、少しでも距離を離そうとしているのが見て取れた。そんなネギ君の腰に 手を回し、引き寄せる。先より距離が近づいたことにより、緊張でもしているのだろう、体が強張るのが分 かった。 「あ、あの、歌わないの…?」 どこか不安げな声音で問うネギ君に、曖昧な笑みを浮かべる。それに、ネギ君の瞳が揺れを増した。 「後で塗り直さないといけないね。」 「え?何が……んっ。」 小さく笑って漏らした言葉に、ネギ君が首を傾げる。その顎を掬いあげて、唇を重ねた。 触れるだけの口付け。一度離し、再度重ねる。 触れるだけのキスを何度かしてから、ゆっくりと舌を滑り込ませる。途端、腕の中、小さく震える体。小 さな体を抱き締めて、その甘さに酔いしれる。 「ん……んっ……は…ぁ……。」 長い口付けから解放されたネギ君が、溜息にも似た吐息を漏らした。 自分で自分の体を支えることが出来なくなったのだろう。力なく僕に凭れかかるネギ君の髪を、ゆっくり と撫ぜる。 幾許かの後、ゆっくりと顔を上げたネギ君の視線と、僕の視線が絡む。 潤んだ瞳に、困惑と、それ以外の色を見つけ、思わず苦笑してしまう。 以前ならば決して見ることはなかったであろうそれに、ネギ君にそのような瞳(め)をさせる原因が自分だ という事実が昏(くらい)興奮を呼び起こした。 「タカミチ…?」 視線を絡めたまま苦笑していた僕に、ネギ君が戸惑い気味に声をかけてきた。 その声音にさえ、続きをねだられているような響きを感じ、劣情を揺さぶられる。 「うん?」 「なんで……黙ってるの…?」 戸惑い気味に紡がれた言葉に、ネギ君の頬にそっと指を滑らせる。緊張にか、体が強張るのに苦笑を禁じ 得ない。 「さあ、なんでだろうね。ネギ君に見惚れていたから、かな。」 「え……?」 小さく笑って言えば、困惑に揺れる瞳。 頬を朱に染め、目を瞬かせているネギ君に、思わず笑みが深まる。 「あ、あの……。」 「『続き』が欲しいかい?」 「え………?」 耳元に小さく囁けば、ネギ君は小さく体を震わせながら僕を見た。目が合った瞬間、真っ赤になるネギ君。 絡んだ視線に何を感じ取ったのか、その反応を見れば容易に想像できるというものだ。 「あ、や、違……っ。」 慌てて離れようとするのを、背中に回した腕で引き寄せる。引き寄せた勢いのまま唇に触れるだけの口付 けを落とせば、真っ赤になって固まってしまうネギ君。その隙に右足を掬いあげ体を持ち上げると、そのま ま反転させ、先ほどまでと対称的な姿勢をとらせた。 「タカミチ…っ!?」 後ろから抱き締めれば、スカートの裾を両手で押さえたネギ君が、頬を真っ赤にして僕を振り返った。そ れに小さく笑んで、白い太ももに手を添わせる。瞬間、強張る体に、知らず苦笑が漏れた。 「タ…タカミチ……?」 ゆっくりとその滑らかな肌の感触を楽しめば、ネギ君の体が小さく震える。 震える声がその口から零れ落ち、揺れる瞳が僕を見る。それに惹かれるように、もう片方の腕でゆっくり と抱き寄せた。 「なんだい?ネギ君。」 耳元に落とした声に、腕の中の体が小さく跳ねた。 戸惑いを隠せない瞳が揺れを増す。何かを言いたげな唇は、けれど言葉を紡ぐことができず、薄く開かれ たままだ。そんなネギ君の様に、劣情を揺さぶられる。 「あ…あの……。」 「電車の中での僕の言葉に、想像してしまったのかな?」 「え………?」 一瞬、意味が分からなかったのだろう。きょとんとした顔をして、けれど次の瞬間、僕の言わんとしてい ることを理解したのか、耳まで真っ赤になった。 「あ、あれは、あの…っっだ、だって、タカミチが……っっ!」 「僕が?」 「…へ、変なこと…言うから……っっ。」 後半は消え入りそうな声でそう答えたネギ君に、知らず笑みが深まる。 「変なことなんて、言ったかい?」 「…っっ…へ、部屋に戻ったら、触っていいって……っっ。」 「ああ、確かに。でも、それ以上のことを言った覚えはないんだけれどね。僕は、ネギ君。君に何かすると 言ったかい?」 「…………っっっ!///」 揶揄するようにそう言えば、ネギ君は真っ赤になって黙り込んでしまった。 ネギ君の反応に小さく笑んで、そっとスカートの中に手を差し入れる。瞬間、弾かれたように反応したネ ギ君が、慌てて僕の手を押さえようとした。それを片手で封じ込め、緩慢な動きでそれに触れた。 「や、あ……っ!」 ひくりと震える体。触れたそれは、緩やかに、けれど確実に形を変えていた。 「想像だけでこんな風になってしまった?」 「ち、違……っ、やあ……っっ。」 「それじゃ、さっきのキスで、かな?」 「や…だ……っや…っっタカミチぃ…っ。」 ゆっくりと撫でるように触れれば、その度に小刻みに震える体。それを否定したいのか、ネギ君はふるふ ると頭を振った。 「ん……っこ…んなとこ、で……っは、や…ぁ……っ。」 固く瞑った瞳から、涙が溢れ出す。それが、ネギ君が頭を振る度、珠になって散った。 流石に苛めすぎたかと、ゆっくりと手を離す。途端、安堵に弛緩する体。そんなネギ君を、そっと抱き締 める。 「すまない。ネギ君。言い過ぎたね。」 「……っ……タカミチの、いじわる……。」 「ああ。つい、ね。でも……。」 途中で言葉を区切り、頬に口付けを落とす。それに、ネギ君はくすぐったそうに肩を竦めた。 「このままじゃ、どうしようもないんじゃないかな?」 僕の言葉に、ネギ君の頬に朱が散る。 「あ……。で、でも……だって……。」 「うん。どうしようか?」 スカートの裾を押さえて真っ赤になるネギ君に、知らず笑みが浮かぶ。 真っ赤になって俯いてしまったネギ君を片腕で抱き締めて、耳にかかる髪を払うように触れれば、小さく 反応が返ってきた。 「……うう……。」 「うん?」 「……いじわるぅ………。」 「ははは。」 小さく漏れた言葉に、思わず笑ってしまう。 そういう反応をするから、ついつい苛めたくなってしまうのだと、言えばきっと、ネギ君は頬を膨らませ て怒るのだろう。それとも、首を傾げるだろうか。 くつくつと笑う僕に、ネギ君は小さく唸っている。その淡く染まった頬に口付けて、更に深く抱き締めた。 「「いやだ。」と言ったのは、ネギ君じゃなかったかな?」 「……っっだ、だって……。」 「こんなところで?しかし、外よりはマシだと思うんだけれどね。それとも、外の方が良かったかい?」 「そ……っ!!???//////」 ネギ君は、僕の言葉に真っ赤になって絶句してしまった。 その反応がまた可愛らしくて、堪え切れない笑いが漏れる。 「冗談だよ。ネギ君。」 「う〜〜〜〜……っ。」 「でも、これはなんとかしないと、ね。」 言いながら、そっと撫でれば、小さく体が跳ねる。 「タ、タカミチ…っっ。」 戸惑いを多分に含んだ声。それに、小さく笑う。 「とりあえず、治めてしまおうか。」 「で、でも……っ!あ、や……っっ!」 「あまり大きな声を出さない方がいいかな。」 「…………?」 「防音設備を施しているとはいえ、あまり大きな声を出すと、外に漏れる可能性があるからね。」 「……っっ!!」 僕の言葉に、ネギ君は慌てて両手で自分の口を塞いだ。それに、笑みが深まる。 「いい子だ。」 耳元に囁けば、小さく体が震えた。 軽く腰を浮かせて、下着を膝のあたりまで下ろしてしまう。そうして、露わになったそれを、ハンカチで 包みこむ。流石に汚すわけにはいかないからだ。 「ん……っんん…っ。」 ゆっくりと刺激を与えれば、腕の中、小刻みに震える体。両手で口を塞いで、懸命に声を堪えているネギ 君に、劣情を揺さぶられる。 あまり長時間この状態のネギ君を見ていては、ミイラ取りがミイラになりかねない。至極残念ではあるが、 お楽しみは後に、とりあえず早目に終わらせてしまうかと、両手で刺激を与えていく。 場所が場所ということもあるのだろう。常より少しだけ過敏な反応を示すネギ君のそれは、比較的簡単に はぜた。 「…は……ぁ…………。」 くたりと僕に凭れかかり、荒い息を繰り返すネギ君を抱き締める。そうしてネギ君の呼吸が整うまで、僕 はそっとその髪を撫でていた。 ようやく落ち着いたネギ君は酷く恥ずかしそうで、それでも僕の腕から逃れる素振りのないのに、知らず 笑みが浮かぶ。 「……まだ時間はあるか。ネギ君。」 「?」 「何か歌うかい?」 そう問えば、ネギ君は頬を朱に染めて俯くと、ふるふると頭を振った。そうして、小さな声で否定の意を 示す。 「…いい……。」 「そうかい?ネギ君の歌を聞いてみたかったんだけれどね。」 僕の言葉に、ネギ君は上目遣いで僕を見る。余韻にか、潤んだ瞳に鼓動が跳ねた。 「……タカミチのバカぁ……。」 「ははは。」 次いで漏れた可愛らしい悪態に、思わず僕は声を立てて笑った。